四水転空
キト伝説2011




六日目の夜がやってきた。
「ウルー、ウルー」
水おどしの声が分水嶺から響き渡ってくる。キト、早くしないと、水がなくなってしまう!三吉!早く!早く!あと数時間しかない! 

夜明け間近キトは水おどしの前に降り立った。そこには、キトが以前見たことのある水おどしはもういなかった。恐ろしい悪霊へと変わる一歩手前の姿だった。 

「キト、私はおぬしのような神ではない。だが高鷲の自然を愛する気持ちはまだ持っている。」
「ならばなぜ水を村へ返さないのだ。君のしていることは果たして正しいことなのだろうか。かえって人間たちを苦しめていることが分からないのか!今ならばまだ間に合うぞ!」
「正しい・・・それは何だ。何が正しく何が悪いのだ。人間は川を汚しその水を飲んだ動物たちは弱ってゆく。それが正しいことなのか!」と言うと水おどしは立ち上がった。水おどしは次第に巨大になり、キトめがけて突進してきた。 

「キトー!」

そこへ三吉が「四水転空」の巻物を持って間一髪現れた。
「少年!それを天に向けて投げるのだ!」
三吉が力いっぱい投げた巻物は宙を舞い四色の光の珠になった。キトが目にも止まらない程の勢いで飛び上がると、光の珠はキトを取り囲み回り始め、次第にキトは光り始めた。
そして、ついに水おどしが悪霊と化す七日目の太陽が昇ったその瞬間、キトは嘴から炎を吐き出した!真っ赤な、大きな火炎が轟々と悪霊を包み、ついには跡形もなく消し去ってしまった。
同時に堰を切ったような水しぶきが起こり、分水嶺の水はまた元通り流れ始めた。
まこと恐ろしき神のお力じゃ。 


村には水が戻り、溢れ出るほどの雪解け水がどこの家でもまた使えるようになった。

「こんなに水が有難いもんやって、知らなかったよ、おばぁ。」
「三吉や、ようがんばったなぁ、みーんな、お前のお陰じゃよ。」

三吉は、両手で水を大事にすくうと、おいしそうに飲み干した。
めでたしめでたし